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help リーダーに追加 RSS キミキス pure rouge else... #04「re-birth novelist」

<<   作成日時 : 2008/08/24 00:41   >>

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前回までのあらすじ。 輝日南高校2年生となる春、真田光一と相原一輝は幼なじみの水澤摩央と再会する。 海外転勤になった両親と離れて光一の家に下宿することになった摩央姉。 昔と同じ気さくさながらも魅力的になった摩央に戸惑つつ、光一は摩央と一緒に暮らす事となった。

始業式の日。 光一と一輝はそれぞれ星乃結美、二見瑛理子の二人と運命的な出会いを果たす。 図書室で文芸部員“デイライト”の書く詩が好きだと語る結美に、自分がそのデイライトだとは打ち明けられない光一。 そして一輝は瑛理子が行っている研究テーマ、“人はなぜキスをするのか”に巻き込まれていく。

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◆キミキス pure rouge else... #04「re-birth novelist」


 図書室で借りた適当な小説に目を通すが…少しも内容が頭に入ってこない。

 読書感想文を書く、という目的がまるで果たせそうにないことを悟ると、光一は本を手放して床の布団に身を投げ出した。

(星乃さん…)

 思い浮かぶのは、今日図書室で話した彼女の事ばかり。

『私、この“デイライト”さんの書く詩がいちばん好きなの……』

 僕が“デイライト”だって…もし、あの時言えていたら、もっと話も弾んで親しくなれたかもしれない。

 でも、そうだとしても……言えないだろうな、とは光一自身が思っていた。

 僕が書いたなんて知ったら…星乃さんの憧れの気持ちを壊してしまいそうな気がして。


「光一〜。 何やってるの?」

 突然、部屋のドアが開いて摩央が顔を覗かせる。 慌てて光一は身体を起こした。

「摩央姉ちゃん! 入るのならノックぐらい…」

「堅いこと言わないの。 女の子じゃあるまいし」

 そう言う摩央は無防備なパジャマ姿だった。 目のやり場に困るものを感じて光一はそっぽを向く。

 摩央の方は、寝るまでの退屈しのぎに来ましたよー、的な気軽さでそこらに座り込む。 そこで、光一がさっきまで読んでいた本に気付いて拾い上げた。

「何読んでるの? 面白いの、これ?」

「さあ…。 春休みの宿題の読書感想文、書くために借りてきただけだから」

「ふぅん。 今更ねぇ」

 丁度いい機会だ。 昨日再会して以来、摩央姉ちゃんに聞いてみようかと思っていたことが頭に浮かんだ。

「ねえ。 摩央姉ちゃんって、今年3年生ってことは受験生だよね」

「まぁね。 もっとも高校受験に失敗したせいか、あんまりやる気にならないんだけど」

「そういえば、そうだっけ…」

 光一や一輝と疎遠になったのも、思えばそれが原因だった。 よほどショックだったのか家に閉じこもったままで、心配した光一や一輝が訪ねて行っても顔も見せない日々が続き…。 結局それっきりになってしまっていた。

「とりあえず大学には行きたいから、勉強はしとかなきゃ…。 あー、もう。 ヤなこと思い出させてくれるわね」

「摩央姉ちゃんって、将来何になりたいの?」

「そうねぇ…」

 少しばかり考え込んで、摩央が答える。

「有名ホテルのパティシエなんかいいかな。 あとフライト・アテンダントとか、カリスマ美容師とか、人気ブランドのファッション・デザイナーとか」

「真面目に答えてよ」

 眉をひそめる光一を、摩央も負けじと睨みつける。

「何よ。 そういう光一は何になるつもりなわけ?」

「……小説家」

 言ってから、笑われるかもと思ったけど…。 案の定、摩央はおなかを抱えてころころと笑い声をたて始める。

「小説家ねぇ…。 悪くはないけど、ミリオンセラー作家になるか世捨て人みたいになるかで、天と地よね」

「うるさいなぁ。 分かってるよ、別に才能あるわけじゃないし」

「なれるわよ」

 そう言った摩央の顔を、光一は見返す。

 ついさっきまでの茶化すような様子はなく、やさしげな微笑みがその顔にあった。

「なれるわよ、小説家。 光一なら。 私、光一のお話、好きだったのよ」

「えっ?」


『私、この“デイライト”さんの書く詩がいちばん好きなの……』


「摩央姉ちゃん、僕の書いたもの読んだことあるの?」

「ううん。 覚えてないの? 子供の頃だけど、私や一輝の前でよく即興の物語つくって話してくれたじゃない」

 …そういえば、そんな事もあったような。 まだ小学校にもあがる前の頃だったと思うけど。

「いろんな漫画とかアニメのキャラクターが出てくる、めちゃくちゃな話だったけど、すっごく面白くて、いつもわくわくしながら聞いてたのよ」

 児童公園の一角。 砂場の真ん中に立って活き活きと話す幼い光一の姿が目に浮かぶ。 その前の砂場の縁に摩央と一輝は座っている。

 ぽかんとした様子で聞いている一輝のとなりで、摩央は目を輝かせてそんな光一を見ていた。

「だから、才能はあると思うよ。 私が保証してあげる」

「才能、か…」

 自分では、そんなものないって思ったけれど。

 星乃さんと摩央姉ちゃん…。 図らずも二人からそんな言葉を掛けられて。

 光一は自分の中に、何か小さな火が灯るのを感じた。


 ………

 昼休みも中ほどの時間。 適当に昼食を済ませた一輝は昨日交わした約束の通り、理科室を訪れていた。

(理科準備室…だったよな。 本当にこんな所にいるのかよ)

 誰もいない教室を横切り、準備室に続くドアをそっと開けてみる。

 半信半疑だったけど、尋ね人の姿はそこにあった。

「二見さん…。 来たけど」

「遅かったわね。 相原」

 一輝の方に目も向けずに、二見瑛理子はノートパソコンのキーボードに指を走らせていた。

 繊細な指の動きに合わせて、カタカタというキータッチ音が二人だけの理科準備室に響いている。

 後ろに回りこんで、画面を覗き込む。 得体の知れない数値が並んだ表が映っていた。

「…何これ?」

「人間の肌の痛点(つうてん)分布密度をまとめたものよ」

「…痛点?」

 “笑点”の親戚番組か?

「簡単に言えば痛みを感じるポイントね」

 そこで初めて、瑛理子は座っている丸椅子を回して、一輝の方に向き直った。

「痛点の分布密度が高い部分ほど、痛みを感じやすい場所になるの。 背中や上腕は痛点の分布密度が低い、つまり痛みに対して比較的鈍感な場所。 反対に指先や口唇は分布密度が高く、痛みを感じやすい場所というわけ」

「はぁ…」

「痛みに限った話ではないわ。 刺激に対して敏感という意味では、触れることで快感を得やすい場所とも言われている。 つまり…、痛点の分布密度が高い唇同士を触れさせる事で、お互い快楽を得られる。 相原が昨日言った『気持ちいいから』キスするという推察は的を得ているということよ」

 世間話のように言う瑛理子の話に、一輝は途方に暮れていた。

 少なくとも、高校で習う生物学の範囲を超えている気がするが…。

「あのさぁ…二見さん。 やっぱオレ、二見さんの助手は務まらないと思うんだけど。 馬鹿だから。」

「相原に手伝ってもらいたいのは、こっちじゃないわ」

 ノートパソコンを閉じて、瑛理子は言う。

「サンプルが欲しいの」

「サンプル?」

「つまりキスした経験がある人の体験談よ。 キスに到るまでのシチュエーションや、その前後の心境の変化、特に快感を感じた様子を聞き出して来て」

「お、オレが!?」

 男子同士でそんな下種な話をした事はある気がするけど…そんな恥ずかしいこと聞いて回れって言うのか?

「そうよ。 出来れば女性の方がいいわ」

「だったら二見さんが自分で聞けばいいじゃないかよ。 友達とかに」

「友達…ね」

 ふと相原から視線を外して、そっけなく答える。

「いないわ。 私には」

「いない?友達が。 一人も?」

「ええ」

「じゃあ、昼休みとかいつもは何やってるんだ?」

「ここにいるわ。 いつも」

 様々な器具の並んだ理科準備室の中で、そう言う瑛理子の姿もひとつのオブジェのように無機質に見えた。

 昨日出会って以来、自分勝手そうな女子だと思っていたが…。 孤独な一面を知って、一輝に少し同情の気が芽生えた。

「…そっか。 寂しいな」

「寂しい? なぜ?」

 不思議そうに言い返す瑛理子。 予想外の反応に、一輝の方がたじろいでしまう。

「なぜって…。 オレだったら寂しいから」

「それは人それぞれの感じ方の違いよ。 相原が寂しいからって、私が寂しいとは限らないわ」

 ノートパソコンの画面をまた開いて、瑛理子はタイピングを始める。

「分かったらもう行って。 サンプルからヒアリング出来たら、またここに来て報告してちょうだい」

「あ、ああ…。 それじゃ…」

 理科準備室を出て行く前に、一輝は瑛理子の姿を振り返る。

(でも…寂しいよな。 やっぱり)

 キーボードを打つ横顔は無表情だったけれど…、一輝にはそれが気持ちを無理に抑えた仮面なんじゃないかって、そう思えた。


 ………

 図書室、司書室と並んで、そのとなりの部屋は書庫になっている。

 一般の生徒には用のないその部屋は、文芸部が活動する部室も兼ねていた。

 その入り口のドアに手を掛けたまま、光一はひと呼吸置くと、意を決して一気にドアを引き開けた。

「あれ? …えっと、真田くん、だっけ?」

 テーブルで原稿用紙に向かっていた眼鏡の女生徒が、突然現れた光一に気付いて声を掛ける。

「ごめんっ!」

 そう大声をあげて深々と頭を下げた光一は、書庫にいた文芸部の部員みんなに何事かと注目されることになった。

「ごめん! 今まで部活サボってて」

 顔をあげた光一は、10人足らずの部員たちを見渡しながら言う。

「それで今更なんだけど…改めて、文芸部に入部させてくれないかな。 ちゃんとした小説を書きたいんだ!」

 突然の宣言に部員たちはお互い顔を見合わせていたが、言い放った光一の顔には凛とした決意が浮かんでいた。

つづく

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